クラウドSIMとはどんな技術?仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく解説

リモートワークや出張、海外旅行など、いつでもどこでもネット環境が欠かせない現代に、注目されているのが「クラウドSIM」と呼ばれる新しい技術です。SIMカードを入れ替える手間がなく、国内外を問わず、広いエリアで安定した通信を利用できる点が大きな魅力。

本記事では、クラウドSIMの仕組みを初心者向けにわかりやすく解説したうえで、利用するうえでのメリット・デメリットや従来のモバイルWi-Fiとの違いを整理しました。移動先での最適なネット環境選びにぜひ役立ててみてください。

クラウドSIMとは?クラウドの情報を利用して通信できる技術

クラウドSIM技術は、2009年に海外の通信企業「uCloudlink」によって開発された通信技術です。物理的なSIMカードを端末に挿入する必要がなく、クラウド上のSIM情報を利用して通信できる仕組みを指します。

主にモバイルWi-Fiルーターや一部のスマートフォンに採用されており、外出先や出張先など幅広いシーンで安定したインターネット接続を可能にします。端末の電源を入れるだけで、クラウド上のサーバーから認証データを取得し、自動的にモバイル回線に接続できるのが特徴です。

なお「クラウドSIM」と「クラウドWi-Fi」という言葉は、ほぼ同義として使われています。「クラウドSIM=技術の名称」、「クラウドWi-Fi=その技術を搭載したモバイルWi-Fiサービス・端末」と理解するとわかりやすいでしょう。

クラウドSIMとeSIMとの違い

クラウドSIMと混同されやすい技術が「eSIM」です。いずれもSIMカードが不要な技術ですが両者は仕組みが大きく異なります。

eSIMは、端末にあらかじめ ICチップ が内蔵されています。このチップにキャリア情報を登録することで、通信できる仕組みです。

一方、クラウドSIMはSIM情報をクラウド上で管理し、端末の位置や状況に応じて最適な回線に自動的に切り替わります。

eSIMがユーザー自身による各キャリアとの契約と設定を前提としているのに対し、クラウドSIMはサーバー側で自動的に最適なキャリアを割り当てるため、ユーザーは特別な操作をせずに通信を利用できます。

そのため、両者はSIMカードが不要という共通点はありながらも、仕組みが大きく異なるのです。

クラウドSIMで通信を行う仕組み

クラウドSIMがどのようにモバイル回線へ接続しているのかを、3つのステップに分けて見ていきましょう。

1. 端末がサーバーへリクエストを送信

クラウドSIM対応端末の電源を入れると、自動的にクラウド上のサーバーへ接続します。ここで端末は「SIMデータを利用したい」というリクエストを送信し、通信準備を開始します。

2. SIMバンクがSIMデータを選択・送付

サーバー側にある「SIMバンク」が端末のリクエストを受け取り、複数のSIMカードの中から現在最適なSIMを選びます。選ばれたSIMカードの認証情報は、クラウド経由で端末に送られます。

3. 端末が仮想SIMを生成し、モバイル回線に接続

端末は受け取った認証情報をもとに「仮想SIM」を生成。この仮想SIMを利用して、発行元キャリアのモバイル回線へ接続します。これによりユーザーはSIMカードを差し替えることなく、電源を入れるだけで通信が利用できるわけです。

クラウドSIMを利用する5つのメリット

従来のモバイルWi-Fiに比べ、クラウドSIMには以下の5つのメリットがあります。

  • 海外を含め広いエリアで通信を利用できる
  • キャリアの通信障害があっても接続し続けられる
  • キャリア回線より費用が安い
  • 自分に合った容量のプランを選べる
  • 短期間の容量制限がない

これらのメリットについて、詳しく見ていきましょう。

1.海外を含め広いエリアで通信を利用できる

クラウドSIMの大きなメリットは、1台の端末で広いエリアをカバーできる点です。au・ドコモ・ソフトバンクといった大手3社の回線から、その時点で最適な回線を自動的に選択して接続します。

従来のSIMでは契約した1社の回線しか利用できないため、つながる場所が限られる弱点がありました。しかしクラウドSIMはマルチキャリアに対応しているため、複数のキャリアに接続でき、より安定して電波をつかめるのが特長です。

また、日本国内だけでなく、海外でも現地の通信キャリアに自動接続できるのも利点です。旅行や出張の際に現地SIMカードを購入したり、空港でWi-Fiルーターをレンタルする必要がなく、到着後すぐにインターネットを利用できます。国をまたいでも端末をそのまま使えるため、手間もコストも抑えられます。

2. キャリアの通信障害があっても接続し続けられる

クラウドSIMは複数のキャリア回線に対応しており、1社で通信障害が発生しても自動的に別のキャリアへ切り替えられるように設計されています。これにより、1つの回線に依存しなくてすむのが強みです。

特にテレワークや外出先での業務利用では、通信が途絶えると大きな支障が出ます。その点、クラウドSIMであれば「インターネットにつながらないリスク」を最小限に抑えられるのがメリットです。

3.キャリア回線より費用が安い

クラウドSIMは、大手キャリアのデータプランと比べて、同じ容量ならリーズナブルに利用できるのが特長です。

たとえばドコモの「ahamo大盛り」は110GBで月額4,950円ですが、クラウドSIMサービスなら100GBで3,500円前後と、約1,000〜1,500円以上安く利用できるケースもあります。複数キャリアの回線を自動で切り替えて利用できるにもかかわらず、料金を抑えられるのは大きな魅力です。

とくに外出先での利用が中心で「できるだけコストを抑えたい」という人にとっては、クラウドSIMが有力な選択肢となるでしょう。

4.自分に合った容量のプランを選べる

クラウドSIMの魅力のひとつは、利用者のニーズに合わせて柔軟にプランを選べる点です。

少量のデータ通信だけを使いたい人向けのライトなプランから、大容量でしっかり使いたい人向けのプランまで、幅広く用意されています。契約方式も月額制だけでなく、日額制や短期契約など多彩にそろっているため、自分の利用スタイルに合わせやすいのが特徴です。

長期的に利用する人はもちろん、旅行や出張といった一時的な利用にも適しており、柔軟に選択できる点が大きなメリットといえます。

5.短期間の容量制限がない

クラウドSIMは「短期間での容量制限がない」点でも安心感があります。従来のモバイルWi-Fiでは「3日で10GB」といった制限が設けられており、その上限を超えると数日間速度制限がかかってしまうケースが少なくありません。

クラウドSIMの場合、このような短期制限は設けられていないため、日ごとの使用量を気にせずに使えるのが大きな利点です。リモート会議や動画視聴が続く日でも、安心して利用できます。

ただし完全に無制限ではなく、月単位の総データ容量に上限がある点には注意が必要です。そのため、契約プランのデータ量の上限と、現在のデータ使用量を把握しながら利用する必要があります。

クラウドSIMを利用する3つのデメリット

クラウドSIMは、広いエリアで使えることやコストの安さなど多くの利点がありますが、万能ではありません。実際に利用する際には「注意すべきポイント」も存在します。ここでは特に知っておきたい3つのデメリットを整理します。

  • 利用できるデータ量が完全無制限ではない
  • 通信速度はそこまで速くない
  • 自分で回線を選べない

こちらもそれぞれ詳しく見ていきましょう。

1.利用できるデータ量が完全無制限ではない

現在のクラウドSIMサービスには「完全無制限プラン」は存在せず、月間容量には必ず上限があります。短期間の容量制限がない点はメリットですが、「完全無制限」を期待して契約するとギャップを感じる可能性があるでしょう。

この背景には、2020年のコロナ禍でテレワーク需要が急増した際、一部のクラウドSIMサービスで通信障害が多発したことがあります。当時はまだ「完全無制限プラン」が提供されていましたが、利用者急増により、特定のキャリアがSIM供給を制限。安定性を保つためにクラウドSIMサービス各社では、完全無制限を廃止し、月間上限付きのプランへ移行しました。

そのためクラウドSIMにはデータ量無制限のプランはないと押さえておきましょう。

2.通信速度はそこまで速くない

クラウドSIM端末の通信速度は、およそ下り最大150Mbps、上り最大50Mbpsが相場です。最新の5G対応モバイルルーターが下り1Gbpsを超えるケースもあるため、比較するとクラウドSIMは速度面で一歩譲ります。

しかし、150Mbpsでも動画視聴やSNS、オンライン会議を行うには十分実用的な速度です。日常的な利用で不便を感じるケースは少ないでしょう。

3.自分で接続する回線を選べるわけではない

クラウドSIMは、利用場所や状況に応じて接続先キャリアを自動で切り替える仕組みです。そのため、利用者が「今はA社の回線を使いたい」と思っても、自分の意思でキャリアを選ぶことはできません。

電波状況が悪い場合は、端末を再起動して電波を最適化するのが一般的な対処法です。3大キャリア(au・ドコモ・ソフトバンク)の回線に対応しているのは大きな強みですが、「自由に回線を切り替えられるわけではない」という点は理解しておく必要があります。

従来型モバイルWi-FiとクラウドSIMを比較

クラウドSIMは、従来型のモバイルWi-Fiと同じく「持ち運べるネット環境」を提供する点では共通しています。ただし、SIMの仕組みや使い勝手には大きな違いがあります。下の表では、両者の違いを整理しました。

項目 従来型モバイルWi-Fi クラウドSIM搭載モバイルWi-Fi

SIMカード

物理SIMカードを挿入して利用

SIM情報をクラウドで管理、カード不要

接続キャリア

契約した1社のみ

複数キャリアから自動で最適な回線を選択

回線切替

自分でSIMを差し替える必要あり

自動的に切り替え(場所や状況に応じて)

海外利用

渡航先で現地SIMを購入・設定が必要

現地キャリアに自動接続、SIM購入不要

通信安定性

契約キャリアのエリア次第

複数キャリアを切替可能で比較的安定

導入の手間

SIM契約・設定が必要

端末を用意すれば電源ONですぐ利用可能

料金イメージ

契約キャリアの料金体系に準拠

月額2,000円程度〜と比較的安価(事業者による)

柔軟性

利用キャリアに縛られる

海外・国内ともにフレキシブルに利用可能

上記を踏まえ、次では従来型モバイルWi-FiとクラウドSIMの選び方について紹介します。

従来型モバイルWi-FiとクラウドSIMの選び方のポイント

「従来型(物理SIM)」と「クラウドSIM搭載型」では、どちらも仕組みや使い勝手に違いがあるため、人によって向き不向きがあります。ここでは、それぞれに適した利用者像を整理したため、どちらを選ぶかの判断にご活用ください。

従来型モバイルWi-Fiが向いている人

従来のモバイルWi-Fiは、1社の回線を安定的に利用するシンプルな仕組みです。契約したキャリアのサービスを継続して利用したい人や、利用範囲が限られている人に適しています。

①特定のキャリアを継続的に使いたい
長年同じキャリアを使っていて料金プランやサービス内容に満足している人には、従来型のモバイルWi-Fiが適しています。

②利用エリアが限定されている
日常的に利用する範囲が都市部や自宅周辺に限られている場合、1社の回線だけでも十分です。

③SIMの差し替えに抵抗がない
出張や海外旅行のときに現地SIMを購入して差し替える作業に慣れている人や、任意の回線を選びたい人には従来のモバイルWi-Fiが適しています。

クラウドSIMが向いている人

クラウドSIMは、複数キャリアの回線を自動で切り替えられるのが強みです。移動が多い人や海外利用が多い人、そして通信の安定性を重視する人に向いています。

①出張や旅行など移動が多い
移動のたびに回線が変わっても、自動的に最適なキャリアにつながるため、移動が多い人には特に便利です。空港や海外でSIMを探す手間も省けます。

②海外利用の機会がある
渡航先で現地SIMを購入する必要がなく、自動で現地キャリアに接続できるので、ビジネスや旅行で海外に行く人に最適です。プリペイドSIMより割安で使えるケースもあります。

③通信の安定性を重視したい
万一1社の回線がつながりにくい状況でも、他のキャリアに切り替えられる仕組みがあるため、オンライン会議やリモートワークなど安定した通信が必要なケースに向いています。

④SIM差し替えや契約の手間を減らしたい
クラウドSIMを選ぶ場合、SIMカードの管理やキャリア契約の切り替えが不要です。端末の電源を入れるだけで利用できる点は、手間を極力減らしたい人にとって大きなメリットです。

クラウドSIMとは、移動や海外利用に強いモバイルWi-Fi

クラウドSIMは、電源を入れるだけで最適な回線につながり、海外でもそのまま利用できる便利なサービスです。従来のモバイルWi-Fiよりも通信の安定性が高いうえに、コストも抑えやすいのが大きな魅力といえるでしょう。

「出張や旅行で移動が多い」「いつでもどこでも安定した通信を確保したい」という方にとって、クラウドSIMは頼れる選択肢になります。これからモバイルWi-Fiの利用を検討する場合には、ぜひクラウドSIM対応の端末を選択の候補に入れてみてください。